星の光に寄す (見上げてごらん夜の星を)
秋も半ばを過ぎ、夜は澄みわたりて、虫の音(ね)しきりに聞こゆるころ、
明子(あきこ)と申す姫君、庭の几帳の陰に、ひとり座し給ひぬ。
父君を早くに亡くされ、母君もまた遠き山里に隠れおはしませば、
御身ひとつにて都に残されし姫君、日々の営みに慰め少なく、
ただ胸の内に、空しき風の吹き過ぐるを覚え給ふ。
その夜、空を仰ぎて、星の数ならぬ光を眺め給へば、
涙、知らず知らず頬を伝ひて落ちにけり。
「人は、いかにして生き続くるや。
これほどの闇に、いづこにか道見出だすことあたはむや」と、
ひとりごち給ふ声も、かすかに震へぬ。
されど、その傍らに、若き君、敦成(あつなり)ありけり。
幼き日より姫と共に学び、時に慰め、時に戯れ言を交はしきたる仲なれば、
この夜もまた、御簾(みす)をそっと分けて近づき、静かに姫の横に座し給ふ。
「姫、かの星を見上げ給へ。
無数の光、われらを包みて、照らしてやまず。
そのひとつひとつは、ささやかなれど、寄り添ひ重なりて、
かくも夜を明るく照らすなり」
言の葉やさしく、声もまた、風のごとくおだやかにして──
明子は、袖を濡らしつつも、かすかに笑みを浮かべ給ふ。
「わが心に、ひとつの光もなきものと思ひしかど……
君のことばを聞けば、いと小さき火ながら、胸にともるを覚ゆ」
ふたり並びて夜空を仰ぎしとき、
流星ひとすぢ、闇を裂きて走りぬ。

その光のはかなさ、かえって胸ふるへさせ、
ふたりの袖、そっと触れ合ひて、声なき誓ひを交はしけり。
闇の中にあるこそ、星の光は、いと際立ちて美し。
ひとりにあるこそ、人の温もりは、まことに沁む。
明子はその夜、胸に小さき幸ひを抱きて、静かなる眠りに落ち給ひき。
夢の中にては、亡き父母の御姿あらはれ給ひ、やさしく微笑みぬ。
かくて姫君は、心に悟り給ふ。
大いなる幸ひを待たずともよし。
たとへわづかにても、寄り添ふ心あるならば、
それこそが、尊き光なり──と。
夜はふけゆき、星の瞬きは衰へず。
その光、ふたりの未来をいかに導くかは、まだ定かならねど──
共に仰ぎし今宵の星空は、
きっといつまでも、ふたりの胸に生きつづけむ。
【参照歌詞】見上げてごらん夜の星を(坂本九)*1
【式部様より】
この物語は、歌のやさしい旋律を孤独な姫君と寄り添う若君の姿に託し、
「闇の中だからこそ星は光り、人の温もりは沁みる」という主題にまとめました。
希望を大げさに語らず、小さな幸せに救われる尊さを描くことを意識しました。*2